
2025.11.04
小児用の医療機器は、対象患者が少なく、身体の成長に伴って製品のサイズが変化するといった特殊性から「採算性が確保しづらく研究開発や安定供給が滞る」―。こうした指摘を受けて、小児用の製品について、現在よりも高く公定価格を設定できるよう、制度を見直すことが、診療報酬改定を議論する中央社会保険医療協議会で合意されました。合意を受けて、2026年6月から、医療保険制度下で、小児用製品の評価を高くしていくことになりそうです。
●他社の値引き攻勢に影響されない配慮を
先日の中医協で示された見直し方針をみると、まず製品の公定価格が設定されている「機能区分」を、「成人用」のものと「小児用」のものに分割、小児用の製品の価格下落に歯止めをかけようというものです。
機能区分とは、製品ごとに価格を設定するのではなく、同じような機能を果たすと判断された複数の製品をひとまとめにし、同一の償還価格を設定することを指します。非常にリーズナブルな制度ではありますが、同じ機能区分で評価されている競合品が安売りを始めると、自社製品を値引き販売しなくても、2年に1回、機能区分の価格が下落し、影響を受けることになります。
つまり今回の見直しは、成人用などの安売り競争のあおりを受けないよう、「小児用」の機能区分を設け、採算性に配慮して安定供給を続けてもらいたいと、中医協の事務局を務める厚生労働省が提案した形と言えます。
●より高い価格設定が望める原価の積み上げ方式を選択しやすく
もう一つの見直しは、これから保険適用を目指す、新しい小児用の製品への対応となります。ざっくりいうと、特定保険医療材料は、すでに機能区分が存在するか否かで、評価が分かれることになります。画期的な製品開発を目指す医療機器メーカーは、同じ機能区分で評価されたくないとして、「機能区分」の新設を目指して、製品を高く評価してもらおうと、製品開発にいそしみ、保険戦略を日々練っていると言っても過言ではないでしょう。
ただ新しい機能区分を作ることになっても、「類似機能区分」をベースに価格算定されると、価格の“伸びしろ”が限定的となるため、医療機器メーカーは、革新的な製品と認めてもらい、製品原価に、販管費、営業利益、流通経費、消費税を上乗せして公定価格を設定できる、原価積み上げ方式を志向します。
今回は、「類似機能区分」を原則とする、価格算定ルールに例外を設けて、緩和する提案となります。具体的には、類似機能区分方式で算定した価格が、外国で販売されている価格の0.8倍以下になるのであれば、原価を積み上げて、新しい価格を設定することを、「企業側が希望できる」ように改める内容となります。
●先天性疾患などでの製品開発・供給の加速化に期待
採算性を懸念して、医療機器メーカーが小児用の製品開発に二の足を踏んでいる可能性があることから、今回の見直し提案は、好意的にみられています。とくに医療機器メーカーが新しく市場投入する小児用の製品については、医療上の必要性の高さなどを踏まえて、今回の見直し提案の対象をどう線引きするのか、年度末までに、詳細な制度設計が示されることになるでしょう。
原価を積み上げた価格算定ができるようになれば、一定の効果を上げる可能性は高そうです。実は今回の提案、厚労省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」(ニーズ検討会)で開発要請された品目に対するルールを準用したものです。ニーズ検討会では、その因果関係は分かりませんが、開発要請のあった小児用製品の多くが、国内に投入されるようになったことは事実です。
命に軽重はありません。ただ次代を担う子供たちには、手段があるのであれば、遅滞なく、出来得る限り、公的保険下での治療を提供してあげたいと思います。ましてや、自助努力ではいかんともしがたい、先天性疾患などであれば、なおさらです。
【MEジャーナル 半田 良太】