
2025.12.01
病院収益が減るので、医療の質向上につながる手技を推奨しないケースが存在する―。カテーテルを使って狭窄・閉塞した冠動脈を、金属の筒(ステント)などで拡げる「冠動脈インターベンション」(PCI)で、手首(橈骨動脈)からカテーテルを挿入する手技が、国内で70%程度にとどまっていることが、日本心血管インターベンション治療学会の資料から明らかになりました。学会は2026年度診療報酬改定で、橈骨動脈からカテーテルを挿入し、狭くなった血管にステントを留置するといったPCIの手技に、高い診療報酬点数で報いるよう要望。「死亡率、入院日数、入院日数、入院コストが低いことが示された」橈骨動脈アプローチに高い評価をつけても、「医療費、患者、医師、メーカーのすべてのステークホルダーに利益がある」とアピールしています。
●ガイドラインで推奨するも、国内の普及率は約70%
現在、PCIを実施するため、「大腿動脈」、「肘動脈」、「橈骨動脈」のいずれかからカテーテルを挿入しています。当初は、太い血管である大腿動脈からのアプローチが手技の成功率が高いとして主流になっていましたが、近年は、死亡率や合併症、入院日数が低いというエビデンスが示された橈骨動脈からのアプローチにシフトしています。日本循環器学会のガイドライン「急性冠症候群2018(改訂版)」によると、「経験豊富な術者の場合、大腿動脈アプローチよりも橈骨動脈アプローチを推奨する」ことが、“最も確証が高く、最も推奨される”と規定しています。ヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでも、国内同様の扱いとなっています。
にもかかわらず、日本国内では、全PCIのうち約70%が橈骨動脈アプローチにとどまり、ほぼ100%の英国に比べて見劣りしています。何故、日本で橈骨動脈アプローチが約70%にとどまるのか―。その疑問に対して学会が示したのが冒頭のコメントとなります。
●加算新設でも「医療費トータルでは約1.5億円減」と試算
全てのステークホルダーにメリットをもたらす橈骨動脈アプローチを政策的に誘導するため、学会は、26年度改定で「橈骨動脈アプローチ加算」の新設を、厚生労働省に提案しました。具体的な要望として、緊急性のある「急性冠症候群」のケースで7000点(7万円)、計画的な対応が可能な「待機例」のケースで4500点(4万5000円)の追加評価を求めています。
要望通りに加算が新設された場合、医療費に与えるインパクトはどの程度でしょうか。学会は、加算新設で、橈骨動脈アプローチは全症例の97%程度になるとの前提で試算。医療費が144億円増加する一方、院内死亡率の低下などで145億4660万円の医療費減が見込めるとして、「トータルで1億4660万円の医療費削減」を見込んでいます。学会はこの試算を踏まえ、「この優れた方法を病院経営などの何らかの理由で推奨しないことの方に倫理的な問題がある」と指摘。加算新設は、「現在存在する倫理的な問題を解決する方法」と結論付けています。
●学会提案の受け入れ可否は年明け早々にも判明
医師は、手技の難しさが同程度であれば、死亡率が低い、合併症が少ない方法を採用しない理由はないはずです。私も、安全性が同等以上で、有効性が高い手技が普及するよう、診療報酬を見直してもらいたいと思います。学会提案が受け入れられるかどうか、年明けにも判明することになります。
ただ、今回の学会提案の内容をみて、急性期医療を提供する病院が、そこまで経営的に追い込まれていることを伺い知る機会になったことの方が、私にとって強いインパクトを与えました。
【MEジャーナル 半田 良太】