
2026.06.01
米国が2月末、イランへの攻撃を開始してからはや3か月。現在、停戦協議中のようですが、報道を見る限り、双方の主張に隔たりが大きく、時期を含めて折り合えるのか不透明なままです。石油をはじめとするエネルギーの多くを海外に依存する日本では、1970年代のいわゆるオイルショックを踏まえ、(産油国以外の)海外の国々に比べ、豊富な国家備蓄を確保しており、直ちに右往左往する状況ではありません。政府はガソリン補助金を維持し、5月の大型連休(GW)でも自家用車での帰省や旅行に自粛要請しなかったこともあり、多くの国民には「遠い国で起こった出来事」と、身近な問題として捉えていない節もありそうです。
ただ事態の長期化に伴い、原油由来のナフサ不足は日常生活に支障を来すようになりつつあります。とくに生活に身近な有名メーカー製ポテトチップスの包装が、カラーから白黒に変更されるという報道は、老若男女問わず、日本全体で中東の戦争による生活への影響が広がりつつあることを、認識せざるを得ないようになったのではないでしょうか。
●医療分野に暗雲「安定供給に支障来す医療関連製品は44品目」
とりわけナフサ不足は、プラスチックなどを多用する医療機器をはじめとする医療分野で、大きな影を落としています。医療分野は、必要な製品が安定供給できなくなると、治療に支障を来し、最悪の場合、命に直結する可能性すら否定できません。一般消費財を含めたあらゆる製品の中で、真っ先に対策を講じなければならない分野といっても過言ではありません。
経済産業省と厚生労働省は3月、「中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」を立ち上げ、石油関連の医療関連製品の「安定供給上の課題の分析」や「対応策の検討」などを、断続的に進めています。加えて、政府は、医療用手袋の国家備蓄放出を決めるなど、矢継ぎ早の対策を講じています。
現時点では、「小児カテーテル」や、「注射器のシリンジ」の滅菌用の重油、「人工透析用の血液浄化器(ダイアライザー)の製造用溶剤」などの確保にめどを付け、相談が寄せられた「安定供給に影響があると判断された77品目」のうち、33品目(5月13日時点)で問題が解消したと政府はいいます。ただ問題が生じた残り44品目については対応を検討中です。今後、ナフサ不足がさらに進むようであれば、安定供給に支障を来す品目数が増加する可能性もありそうです。
●医療分野でのナフサ確保や経済的負担減こそ「政策の一丁目一番地」
停戦協議が現在進行形で、まだまだ予断を許しませんが、医療分野では今回のナフサ不足でも、命に支障の出るような重大問題にはつながっていない模様です。関係者には頭が下がります。今後も、医療機関や医療機器メーカーなどの事業者、関係省庁が手と手を取り合い、製品の安定供給に万全を期してもらいたいです。
ナフサ不足でもう一つ懸念されるのは、医療現場での経済的な問題です。一般の消費財であれば、ナフサ不足によるコスト増分の一部を消費者に転嫁する値上げが可能で、製造側と消費者側で負担を分け合うことができます。
ただ医療保険制度では、公定価格(技術料や特定保険医療材料料)が定められており、中東での戦争を加味していないので、医療機関にコスト増を転嫁する術はありません。ただ、取引当事者の力関係で、コスト増を立場の弱い流通当事者などに押し付ける事態が発生しないとも限りません。
政府は今後、中東情勢の長期化を見据え、電気代、ガス代の負担を軽減し、酷暑の際に躊躇せず、エアコンを利用してもらうことなどを柱とする、補正予算の編成を視野に入れている模様です。広く国民の負担を軽減する観点から、こうした政府の方針を否定する気はありませんが、非常事態を乗り越えるためには、まず社会インフラを維持するための政策を最優先に位置付けるべきではないでしょうか。
つまり、現在実施しているガソリン補助金について、国民生活に直結する物流業者などに限定して継続することや、医療関連製品の安定供給につながる施策を打ち出すことこそが、一丁目一番地であるべきでしょう。とくに医療関連領域は生命関連分野で、統制経済でもあることから、ナフサをはじめとする原料を他産業に優先して配分することや、コスト増を吸収できるような医療保険上の対応、もしくは補助金の支給などを、補正予算で講じてもらうことは、国民の納得感が得られやすいと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】